セミの声で目が覚めて、起きた瞬間からもう暑い。そんな8月をなんとか生き延びてる男、どうも、インヴォルブ吉村です。
今日はいつもの制作の裏話やなくて、ちょっと毛色の違う話。先日、友達から「あかんサイトで服買うてもうたかもしれん」という相談が来ました。
Web屋のはしくれとして、実際にそのサイトを調べてみたら、まあ出るわ出るわ。
せっかくなので、僕がどこを見て「これはあかんやつや」と判断したのか、その手順ごと全部書いてみます。同じような通販サイトは山ほどあるので、見分け方の教材やと思って読んでもらえたらうれしいです。
「あかんサイトで服買うてもうたかもしれん」という相談
友達の話を整理すると、こういう流れでした。
Instagramを見てたら、服の広告が流れてきた。
「閉店セール」で、なんと90%オフ。
サイトを開いたら京都の上品なお店の雰囲気で、写真もきれい。ほんで、買うた。
そこからが長かった。商品はなかなか届かず、かなり待たされてようやく到着。開けてみたら、写真と全然違うもんが入ってた。
返品したいと連絡しても、応じてもらえへん。
……という状態で、僕のところに相談が来たわけです。
買ったのは、京都の店を名乗る、和風のええ感じの名前の通販サイト。
サイト名はここでは伏せます。この記事から検索して見に行かれて、うっかり買う人が出ても困るので。以下「あのサイト」と呼びます。
先に断っておくと、ここから書くのは、2026年8月時点で僕が実際にサイトを見て確認できた「事実」と、そこからの推測です。白か黒かを断定するのは僕の仕事やないので、事実を並べます。並べたうえで、どう感じるかは読んでもらった方にお任せします。
Web屋のクセで、まずサイトの「作り」を見てまう
相談を受けて最初にやったのは、サイトそのものの確認です。
職業病ですね。服より先にソースコードを見てまう。
まずわかったのは、このサイトがShopify(ショッピファイ。世界中で使われているネットショップ作成サービスです)で作られていること。
誤解のないように言うておくと、Shopify自体はめちゃくちゃ真っ当なサービスです。世界中の有名ブランドも使ってるし、僕がお客さまに勧めることもある。悪いのは道具やなくて、道具の使い方です。
ほんで、サイトを眺めてると、細かいところがいろいろ引っかかる。

サイトの上部には「閉店セール 本日深夜まで」のバナー。その下には、2点で10%オフからのまとめ買い割引のバナー。
せやのに、トップページの本文を読むと「新しい場所へ移転します。移転を記念して最大70%OFF」と書いてある。
閉店なんか、移転なんか、どっちですのん。
サイト内で設定が食い違ってるんですよ。
しかもトップページには、母と娘がひとつの想いから始めた店です、という手紙みたいな文章が載ってます。年齢を重ねても自分は美しいと思える場所を、京都の片隅につくりたかった。あなたのおかげで夢は大きく育ちました。みたいな、ようできた話。文末にはキラキラの絵文字まで添えてある。お母さん、絵文字使いこなしてはるなあ。
白壁にハンガーラック、桜の枝を生けた和モダンな空間の写真。すべての女性が自分らしく輝けるように、という趣旨のキャッチコピー。雰囲気は満点です。満点やのに、肝心の「なんでセールしてるのか」だけがブレてる。
ほんでメニューをよう見ると、母娘のどちらでもない、また別の女性の名前を冠したコレクションが並んでるんです。家族経営の設定、早くも3人目の登場です。
商品名も気になりました。全部、聞いたこともない欧文のブランド名っぽいものに™マーク付き。京都の店の商品名がこれ、というのも妙な話です。
サイズ表記は「S (8-10)」。これ、欧米の服のサイズ表記なんですよね。日本向けのお店でこう書くことは、まずありません。海外向けのサイトを日本語に翻訳しただけ、という気配が濃厚です。
商品写真も、拡大してよく見ると背景の板塀のラインがぐにゃっと歪んでたり、バッグの持ち手が途中で溶けてたりする。AI生成か、よそから持ってきた写真を無理やり引き伸ばしたか。どっちにしても「自分とこの商品を自分で撮った写真」には見えへんかった。
極めつけは、存在しないページを開いたときに出る404ページ。「TRANSLATION MISSING」というエラー文と、29ドルのダミー商品がそのまま表示されました。Shopifyの初期設定が放置されてるわけです。少なくとも、隅々まで丁寧に作り込まれたサイトでないことは確かです。
閉店セールの店が、って話ですよ。閉店するのにきれいなサイトを作り込む店もないでしょうけど、そもそも作り込まれてへんのです。
特定商取引法のページが、どこにもあらへん
ここからが本題です。いちばん大事なところ。
日本の消費者向けにネット通販をやる場合、特定商取引法という法律で、事業者名・住所・電話番号といった情報の表示が義務付けられてます。多くのサイトが「特定商取引法に基づく表記」というページにまとめてる、あれです。誰が売ってるのかを明らかにしなさい、というルールですね(細かい例外はありますけど、原則はこれです)。
このサイトには、そのページが見当たりません。
フッターにあるのはプライバシーポリシー、返品ポリシー、配送ポリシー、利用規約の4つだけ。会社名も、住所も、電話番号も、代表者の名前も、サイトのどこを探しても出てきません。連絡先はメールアドレスがひとつだけ。

ほんで、利用規約を最後まで読んでみたんです。長い規約の第18条に、こう書いてありました。
「本規約は、オランダの法律に準拠し、これに従って解釈されるものとします」
オランダて。
京都の母娘の店とちゃうんかい。

もうひとつ、細かいけど決定的なやつを見つけました。プライバシーポリシーのページのURLに、店とまったく関係ない外国人女性のフルネームが入ってたんです。仮にエレナさんとしときましょう。
エレナさん、誰ですのん。
よそのストアのページをひな形にして、名前だけ差し替えた。そう考えると自然な痕跡です。京都の母娘の前は、エレナさんの店やったんかもしれません。少なくとも、母娘が一から心を込めて作った店、という設定とは相性の悪いURLです。
画像検索したら、同じ服が半額以下で出てきた
次にやったのが、商品写真の画像検索です。
Googleレンズ(スマホのGoogleアプリで、写真から同じ画像を探せる機能です)に商品写真を放り込むと、出てきました。
SHEIN(シーイン。中国発の格安通販サイトです)に、同じ写真の商品が。しかも、このサイトのセール価格よりさらに明らかに安い値段で。

ここから想像できるのは、いわゆるドロップシッピングという売り方です。自分では在庫を持たず、注文が入ったら格安通販から取り寄せて(あるいは直送させて)、差額を抜く。
これはあくまで僕の推測です。ただ、もしそうやとしたら、商品がなかなか届かへんかったのも説明がつきます。注文を受けてから海外で手配してるなら、時間がかかって当たり前ですから。
一応言うておくと、ドロップシッピング自体は違法ではありません。仕入れ方の一形態ではある。
せやけど、「京都の母娘の店」というストーリーを作り上げて、実態は海外からの転送で、写真と違うもんが届いて、返品にも応じへん。そうなると話は全然別です。
もうひとつ、レビューも調べました。
サイト内には「4.7点、2,346件以上のレビュー」として、日本人の名前の絶賛コメントがずらっと並んでます。「孫にもおばあちゃん素敵と言われました」みたいな、ようできた文章で。
商品ページには「日本全国55,000人以上の女性に選ばれています」の文言もありました。5万5千人て。うちの橿原市の人口の半分くらいですよ。
ただ、これはサイトの運営者が自分で書けてしまうやつです。裏付けがない。
そこでShopifyのShopアプリ(Shopifyの公式アプリで、店の外側からレビューが見られます)で確認したら、こっちには辛辣なレビューが数件。サイト内の絶賛ぶりとの落差がすごい。
サイトの中のレビューやなくて、サイトの外のレビューを見る。これ、鉄則です。
「返品せんでええから、15%返金します」
さて、材料が揃ったので交渉です。
正面から返品を求めても応じてもらえへんかったので、切り口を変えました。Shopifyには不正なストアを報告する窓口があります。「おたくのやり方はShopifyの窓口に報告できる内容ですよ」という話を添えて、返品を求めました。
すると、それまで返品を拒否してた相手が、返品先の住所を出してきたんです。
中国の住所を。
京都の店の返品先が中国。ここまで読んでもろた方なら、もう驚かへんと思いますけど。
ちなみにこのサイトの返品ポリシー、読み返すとなかなか味わい深いんです。「ご注文は自動フルフィルメントシステムを通じて処理されます」「商品は海外の倉庫から発送されます」「すべての返品はアジアの中央倉庫へ送られます」。ほとんど自己紹介ですよ。京都要素、どこにもあらへん。
なお、商品ページには「ヤマト運輸で全国送料無料」と書いてあります。海外倉庫から出して、国内の配達だけヤマトさん、という形は普通にあり得るので、これ単体では矛盾とまでは言えません。言えませんけど、京都の店やと思って買うた人が思い浮かべる配送とは、だいぶ景色が違うでしょう。
ほんで、向こうの提案は一貫してこうでした。
「返品しなくていいので、15%を返金します」
一見、譲歩に見えるでしょ。でもこの「返品不要の一部返金」、同種の通販トラブルの相談事例でもよう出てくる流れなんです。
中国への返送料は自己負担。往復の送料と手間を考えたら、返品なんて現実的やない。ほんで現実的やないからこそ、多くの人が「もう15%でええわ」と折れてしまう。結果として、返金は15%で済む。向こうの傷は浅いままです。
こういうケースで、もし全額取り返したいなら、販売者との交渉だけで粘るのはしんどいです。現実的な相談先はこのへんになります。
まず、クレジットカードで払ってるなら、カード会社に相談。「商品が説明と違う」「返金に応じてもらえない」という事情によっては、チャージバック(カード会社経由で支払いを取り消してもらう仕組みです)を検討してもらえる場合があります。必ず通るもんではないですが、相談する価値はあります。
次に、消費者ホットライン。局番なしの「188」にかけると、最寄りの消費生活センターなど相談窓口を案内してもらえます。こういう通販トラブルの相談を日常的に受けてる窓口なので、状況に応じた進め方を相談できます。
ほんで、証拠は全部残しておくこと。注文確認メール、届いた商品の写真、やりとりのスクショ、サイトの画面。サイトごと消えることも普通にあるので、スクショは早めに。
ほんで、どう見分けたらええのか
ここまでが実際にあった話。最後に、教材としてのまとめです。
買う前に見るポイントは、この5つ。
「特定商取引法に基づく表記」を探す。 事業者名・住所・電話番号が書いてあるか。ページ自体が無い、あってもメールアドレスだけ、という店では買わない。これだけで大半は防げます
極端な値引きと「本日まで」の組み合わせを疑う。 「本日深夜まで」の閉店セールが何日も続いてたら、その表示ごと疑ってかかるべきです
利用規約やポリシーを流し読みする。 準拠法が外国やったり、日本語が不自然やったり、別の店の名前が残ってたりしたら撤退
商品写真を画像検索する。 GoogleレンズでSHEINやAliExpressの同じ商品が安く出てきたら、それはそういう店です
サイトの外のレビューを探す。 サイト内のレビューは運営者が書けます。Shopアプリや「サイト名 + 口コミ」の検索で外の声を確認する
買うたらあかんことになるサイトは、たいてい買う前のどこかでシッポを出してます。今回のサイトも、後から見れば全部シッポでした。
ほんで、いちばんの対処法は、冒頭の友達の話に戻りますけど、「怪しいと思ったら買わない」です。当たり前すぎて拍子抜けするかもしれませんけど、買ってしもたあとに取り返せる保証は、どこにもありません。取り返せたとしても、時間と気力は確実に削られます。買う前の3分の確認が、いちばん安い保険です。
ちなみにあのサイト、この記事を書いてる今日も「閉店セール 本日深夜まで」って出てます。
友達が買うたときは90%オフ。僕が見たときは最大70%オフ。何日たっても、ずっと本日深夜まで。
その閉店セール、ほんまに閉店しますか?
最後にひとつだけ。引っかかった友達を笑う気は、僕には一切ありません。サイトの見た目はきれいやし、広告は自然に流れてくるし、レビューは絶賛やし、正直、ようできてます。Webを生業にしてへん人が見抜くのは、ほんまに難しい。
せやからこそ、ポチる前に「この店、誰がやってるんやろ」と社名と住所を確認する癖だけ、持って帰ってもらえたらと思います。
というわけで、日々精進してまいります。




